2017年6月17日土曜日

「あの日」小保方晴子を読んで


あの日あの日
小保方 晴子

講談社 2016-01-29
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 小保方晴子著「あの日」を読みました。

各章は以下の通りです。

はじめに
第1章 研究者への夢
第2章 ボストンのポプラ並木
第3章 スフェア細胞
第4章 アニマル カルス
第5章 思いとかけ離れていく研究
第6章 論文著者間の衝突
第7章 想像をはるかに超える反響
第8章 ハシゴは外された
第9章 私の心は正しくなかったのか
第10章 メディアスクラム
第11章 論文撤回
第12章 仕組まれたES細胞混入ストーリー
第13章 業火
第14章 戦えなかった。戦う術もなかった
第15章 閉ざされた研究者の道

 2014年1月28日の記者会見。日本の理系女子(リケジョ)が中心に研究した成果が、世界的に有名な科学誌「ネイチャー」に掲載されるという、全世界に衝撃的な印象を与えた大ニュースでしたた。
 
 年を越し、正月気分が抜けかかった頃に発表された大ニュースは、瞬く間に日本中、世界中に華々しく広まりました。

 さて、この著書を読むと、小保方氏が、どのような経緯で、STAP現象の研究を始め、論文にまとめて発表し、最終的に論文撤回にまで至り、博士学位のはく奪にまで至ったのかが、小保方氏の視線から詳細に述べられています。

 最初に読んだ心証としては、小保方氏の文章は非常に読みやすく、彼女は文章表現に長けているなあと、感じました。

 肝心な内容についてですが、前半の「第4章 アニマル カルス」あたりまでは、小保方氏が早稲田大学に入学後、強運により様々な研究者と知り合い、自分の目指すべき研究を見極めていく様が描かれています。ただ、研究内容は、わかりやすく丁寧に説明されているものの、専門用語が多く、生物学に疎い者にとっては読み進めることが大変でした。

 「第5章 思いとかけ離れていく研究」の辺りから、若山氏(元理化学研究所CDB研究員)や笹井氏(同)とともに有名科学誌に掲載することを当面の目標とし、小保方氏が周りの研究者に翻弄されていく様が描かれています。この著書によれば、論文投稿は、小保方氏の要望というより、むしろ若山氏や笹井氏の強い要望によって実現されたように思えます。

 「第6章 論文著者間の衝突」の125頁には、「笹井先生はそんな私を見て、『でもこの論文さえ終われば、若山さんのご奉公も終わり、自分のやりたかった研究を思い切りすることができる。・・・』」と記載されており、 小保方氏は将来の自分の研究環境を確保するために、上司である笹井氏や元上司である若山氏に論文執筆という形で奉公することになります。

 アーティクル論文は、バカンティ氏(ハーバード大学医学大学院教授)をシニアオーサーとして、レター論文は、若山氏をシニアオーサーとして、投稿されました。シニアオーサーとは、研究論文において最も栄誉ある立場であって、論文の最後に載るラストオーサーでもある(121頁)。つまり、小保方氏は、責任者ではなかったのです。

 しかしながら、「第7章 想像をはるかに超える反響」で述べられているように、小保方氏は、2014年1月28日の記者会見を境に大々的にメディアに露出され、あたかもリケジョである彼女に全責任があるかのような心象を全世界に与えました。

 「第8章 ハシゴは外された」に記載されるように、論文発表から1週間もたたないうちに、小保方氏の過去の論文に悪質な研究不正が疑われ(142頁、148頁)、ネイチャー誌の掲載されたSTAP現象の論文にも疑義がかかるのにも時間はかからりませんでした(146頁)。

 「第9章 私の心は正しくなかったのか」以降、小保方氏は、ネイチャー誌の第一執筆者として、論文の全責任を負うかのように、理研内部、メディア、そしてテレビや新聞を通じてニュースをみる世界中の国民から、疑いの目で見られ、追い込まれていきます。著書によれば、小保方氏は、一定期間、反論や検証実験の機会を理研から与えられず、組織的に大きな責任が彼女に押し付けられた形となりました。

 そして、「第11章 論文撤回」に記載されているように、ネイチャー誌に投稿された2つの論文は、とうとう論文撤回という結論に至ります。さらには、「第15章 閉ざされた研究者の道」に記載されているように、その後、小保方氏は、早稲田大学で取得した博士学位までははく奪されてしまいました。

 本書を読んで思ったことは、結局、真実は、分からないということでした。ただ、論文掲載に向かう各研究者の行動の様子などからは、大学や国の研究機関では、権威を得るために、売名行為が行われているということは分かりました。その一方で、当初美味しいと思われたネタに不備が見つかった途端に、その不備を排除するのに容赦ない処置が施されることもわかりました。権威をえるために、周囲の人が美味しいネタに寄り付くことは、国会議員であっても、一企業であっても、どの世界でもあることだから、不思議なことではありませんが、真の現象を追及するという科学分野でこのようなことが行われていたことには大きな衝撃を受けました。


2014年1月28日記者会見
https://www.youtube.com/watch?v=Nf6slUvvpLI

2014年4月9日記者会見
https://www.youtube.com/watch?v=Nbr6WrhJCW4