2017年7月2日日曜日

須田桃子 著「捏造の科学者」を読んで

捏造の科学者 STAP細胞事件 (文春e-book)捏造の科学者 STAP細胞事件 (文春e-book)
須田桃子

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捏造の科学者 STAP細胞事件捏造の科学者 STAP細胞事件
須田 桃子

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毎日新聞科学環境部 須田桃子著「捏造の科学者」を読みました。

 この本は、2014年1月30日にSTAP細胞(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cells:刺激惹起性多能性獲得細胞)現象に関する2本の論文(主論文「アーティクル」(参照文献1)、第二論文「レター」(参照文献2))を学術雑誌ネイチャーに発表した小保方晴子(理化学研究所CDB(発生・再生科学総合研究所)ユニットリーダー)を中心にした科学者達に焦点を絞って、世紀の捏造事件を取り扱った著書です。

(参照文献1)http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/full/nature12969.html
著者:小保方晴子(理研)、若山照彦(元理研、山梨大)、笹井俊樹(理研、故人)、小島宏司(ハーバード大学医学大学院)、マーティン・バカンティ(ハーバード大学医学大学院)、チャールズ・バカンティ(ハーバード大学医学大学院)、丹羽仁史(理研)、大和 雅之(東京女子医科大学)
(参照文献2)http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/full/nature12969.html
著者:小保方晴子(理研)、笹井俊樹(理研、故人)、丹羽仁史(理研)、門田満隆(理研)、Munazah Andrabi(理研)、高田望(理研)、戸頃 美紀子(理研)、寺下愉加里(理研)、米村重信(理研)、チャールズ・バカンティ(ハーバード大学医学大学院)、若山照彦(元理研、山梨大)

 著者は、新聞記者である須田桃子さん。本書を読んだところ、本著者の須田さんは、この事件が起こる前から、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)の取材でノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥氏と交流があったり、上記論文の共同著作者である理研幹部の笹井芳樹氏などとも交流があったようで、あの有名な2014年1月28日火曜日の記者会見前に笹井氏に直接記者会見の参加をすすめられた程の方です。

 2017年6月末の今、2014年1月28日の記者会見(参照画像1)をどれだけの方が覚えていらしゃるでしょうか?論文の筆頭著者の小保方晴子氏が会見の最後の述べた「・・・・夢の若返りも目指していけるのではないかと考えております」という印象の残る言葉をよく覚えています。

参照画像1:https://www.youtube.com/watch?v=Nf6slUvvpLI

 STAP現象は、論文発表後わずか1週間も経たないうちに、論文の画像に不正の疑惑がネット上に広がっていました。

 その後、小保方氏の早稲田大学の博士論文にまで、コピペや画像の不正が指摘され、小保方氏はあの2014年1月28日以来、表舞台からあっという間に消え去りました。

 そして、再び、小保方氏がフラッシュライトを浴びるのは、理研調査委員会の最終報告後の記者会見です。2014年4月9日、大阪市内のホテルで、300人もの記者やカメラマンが参加したとことです。そこで、小保方氏は、堂々と、「STAP細胞はあります。」と言ってのけました。あれだけ期待の星と注目され、あっという間にまるで犯罪者のように扱られても、自分の主張を貫くとは、すごい精神力だなと感じました。

 この会見で、小保方氏は、画像の不正やコピペは、学生の頃から様々な研究室を渡り歩き、研究方法が自己流となってしまい、不勉強で未熟だったと、自己分析しています。

 小保方氏は、2014年4月9日の記者会見でSTAP細胞を200回以上作成したといい、共同著者の笹井氏は、論文不正の指摘に対して、推理小説のような議論で終始してしまうと批判したが、その後、理研内部の上級研究員である遠藤高帆(参照画像2)や、論文共同著作者で若山氏がSTAP現象を解析した結果としてSTAP細胞の存在を否定しうる示唆がされ、ネイチャーはSTAP論文2本を2014年7月2日に撤回しました。

参照画像2:https://www.youtube.com/watch?v=FL9ltGGX1Sk 

 また、早稲田大学は、2014年10月に、小保方氏の博士論文に引用ルール違反や画像切り貼り等の不正があったことを要因として、小保方氏の博士号を1年程度の猶予期間を設けたうえで取り消すと発表しました(参照画像3-1、3-2)。

参照画像3-1:https://www.youtube.com/watch?v=Esk4oZzXhjI
参照画像3-2:https://www.youtube.com/watch?v=GStZ7VHwmHQ
 
 そして、理研の検証実験チーム(リーダー:相沢慎一)は2014年12月18日の記者会見(参照画像3)でSTAP現象を再現できなかったとし、また小保方氏の退職願を受理したとし、幕引きとなりました。

参照画像4:https://www.youtube.com/watch?v=euqDzMi7lNo

 本書では、STASP細胞事件が残したもの(第12章)として、著者は事件発端の要因を分析している。その中で、2002年に米国で発覚したシェーン事件との共通性を論じています。

 シェーン事件とは、ドイツ出身のベル研究所の物理学者ヤン・ヘンドリック・シェーン氏により発表された16本の論文に不正行為が認められ、同氏の63本もの論文が撤回された事件です。

 シェーン氏は、2001年1月に英国科学誌ネイチャーに論文が掲載されたのを皮切りに、高温超電導に関する画期的な成果を有名誌に次々と発表し、科学界の大スターに瞬く間に上りつめました。しかし、世界中の研究チームがシェーン氏の論文追試を試みたが誰も成功できず、ベル研究所の内部告発を発端に外部研究者が捏造を指摘し、世界中から論文捏造の告発を受け、その後、調査委員会が16本の論文に捏造があったと報告するに至りました。
 
 本書では、シェーン事件と次の点で類似していると指摘しています。
・研究の核心部分の実験が若手研究者一人で行われ、シニア研究者がチェック責任を十分に果たさなかった。
 この点については、著者は、若手研究者の小保方氏は基本的に一人で実験をしており、シニア研究者の若山氏、笹井氏、丹羽氏が小保方氏の実験ノートや生データをチェックしていなかったところに、共通点を見出しています。

・ネイチャーをはじめとする一流科学誌の査読システムが論文不正を見抜けなかった。
 この点については、著者は、 一流科学誌といえども、査読自体は該当科学分野で実績のある研究者に査読を依頼し、編集部が査読者のコメントを基に採択を判断するが、査読者自体は不正を見抜くプロではなく、論文掲載の決定権が編集部にあることを指摘する。また、一流誌に載ったからといって、論文の正当性を担保される訳ではなく、ランディ・シェクマン米カルフォルニア大学バークリー校教授(細胞生物学)がSTAP問題について述べた「今回の問題は、インパクトのある研究成果を選りすぐるネイチャーなどの有名誌自身の責任も大きい。事実を偽るような重圧に研究者を追い込む環境を作っている」という言葉を紹介している。

・シェーン氏も小保方氏も、学生時代から不正行為があった。
 この点については、筆者は、両者の論文に実験で得られたのと異なるグラフが用いられ、実験記録に不備があり、生データが保存されておらず、グラフがきれいに見えるようにデータを改竄していることを指摘している。

・組織が置かれた状況の類似性として、論文不正があった頃に、ベル研究所も理研も大幅な研究費の削減があった。
 この点については、筆者は、シェーン氏が活躍した2000年~2002年の頃、ベル研究所はバブル崩壊に伴い、研究費の削減や、研究者のリストラがあり、小保方氏が極光を浴び2014年の頃、理研は当時の民主党政権下で行われた事業仕分けの影響で運営交付金の削減があった点を指摘する。次々と優れた研究成果を発表するシェーン氏はベル研究所にとって「希望の星」であったし、STAP細胞を携えた小保方氏も、やはり理研CDBにとって「希望の星」であった。理研は、STAP細胞の研究に「iPS細胞研究を凌駕する画期的な成果を獲得したいという強い動機」があったとも理研の改革委員会により推測されている。

 以上の通り、本書は、STAP事件の一連の流れを事細かに新聞記者の立場で客観性をもって説明している。しかしながら、結局、STAP細胞はあったのかまでは、確定的な言及はなく、いまだに謎に包まれている。

 最後に、小保方氏と思われるSTAP細胞作製のプロトコルを示したホームページ(参照HP1)を紹介します。このホームページは、2016年3月25日に公開され、挨拶文で小保方氏は、「私の目標は、達成されるべきSTAP細胞の作製の確かな証明を可能にする情報を科学界に提供することです。 したがって、私は、別の科学者がそれらを現実にもたらすことができるように、STAP細胞を作成するためのプロトコルを公開しています。」と述べています。これは、STAP細胞を世界で初めて発見したという精一杯の自負の現れなのかも知れません。
 
 参照HP:https://stap-hope-page.com/
                                                          以上