2012年6月1日金曜日

浅田次郎「天国までの百マイル」を読んで

  浅田次郎(1951年12月13日生まれ)の小説「天国までの百マイル」を読みました。

天国までの百マイル (朝日文庫)天国までの百マイル (朝日文庫)
浅田 次郎

朝日新聞社 2000-10
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  浅田次郎といえば、直木賞受賞作の「鉄道員」(1997年受賞)や、吉川英治文学新人賞受賞作の「地下鉄に乗って」(1995年受賞)が有名ですが、この作品はこれらの賞を受賞した後に発行されています。

 この小説は、不動産事業に失敗し破産した城所安男と、心臓病を患った母親のきぬ江と、安男の事業失敗を機に離婚した元妻の英子と、不動産事業を営んでいた頃からの付き合いのあるホステスのマリと、母親の病や介護に無関心な兄姉達と、母親の主治医などとの複雑な関係を通じて、母親との親子愛を中心に、医者達そしてマリの無償の愛などを深く切なく描いています。

 城所安男は、自身が経営していた不動産会社をバブル崩壊後に潰して破産に至ります。そして、安男は、妻子とも別れ、知り合いの弁護士紹介で包装用資材問屋に勤務していました。安男は、お金に苦労しながらも、ホステスのマリの支援を受けながら、妻子へ30万円も仕送りながら生活をしていた矢先、母親が狭心病で入院したとの連絡を受けます。

 安男の母は、女手ひとつで4人の子供を立派に育ててあげています。安男の兄姉は、一流商社社員であったり医者であったりエリート銀行員の妻であったり、みな順調に出世しているが、母親へはなぜか冷たい対応をとります。

 主治医藤本は、安男に対して、自身の勤務する広尾の大学病院では手術による治療は難しいが、千葉県鴨浦町のサンマルコ記念病院の曽我医師ならば執刀できるかも知れないと打ち明けます。高齢である母親の病気の治療に際し、リスクの大きいバイパス手術を行うのか、内科治療で確実な延命措置を採るのかで、安男の周りが反対者も出て揺れます。

 そして、安男は、愛する母親を救うため、誰に頼ることなく一人で、遠く離れたサンマルコ記念病院に借り物のワゴン車で向かうことを決意します。サンマルコ記念病院までの距離は、ざっと百マイル(約160km)。安男は、奇跡を信じて、天才心臓外科医曽我に母親の命を託しに向かいます。そして、母親の手術を終え、安男は再び立ち直るきっかけを掴みます。

 この本は、文章の流れがよくて、非常に読みやすく、比較的短期間で読了することができました。冷たい兄姉の対応などは、核家族社会の現代社会を映し出したかのようで、そのような中でも、真の親子の愛や無償の愛というものが存在することを、この本は知らしめてくれます。先日、母の日が過ぎたばかりですが、自分自身の対応の温かみのなさに心当たりがあるところもあり、この本によって、自分勝手な考えや行動が戒められました。
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