2011年12月4日日曜日

「白い恋人」と「面白い恋人」の戦い

  北海道銘菓「白い恋人」で有名な石屋製菓株式会社が、菓子「面白い恋人」を製造販売等する吉本興行株式会社など3社を、商標権侵害を主張して、札幌地方裁判所に提訴したという報道がありました(日本経済新聞12/4)。
 
 「白い恋人」は、ご承知の通り、1990年代頃から北海道のお土産として非常に有名で、数多くの観光客に親しまれてきた銘菓です。
 一方、「面白い恋人」は、2010年夏頃から大阪等関西を中心に大阪のお土産として販売され、最近では東京駅などでも販売されている菓子です。

 「白い恋人」の石屋製菓は、吉本等を提訴するに際して、商標権侵害を主張していますが、商標権侵害が成立するには、どのような要件が必要なのか、以下で検討してみたいと思います。

 ここで、商標権侵害が成立するには、少なくとも、
①石屋の「白い恋人」にかかる商標権が存在すること、
②石屋の登録商標「白い恋人」と、吉本等の使用商標「面白い恋人」が互い同一または類似すること、
③石屋の登録商標「白い恋人」で指定された指定商品または指定役務と、吉本等の使用商品が同一または類似すること、
④吉本等による「面白い恋人」の使用行為が商標法で特定される使用行為に該当するか
の4つの要件を満たす必要があります。

まず、①について検討しますと、石屋は少なくとも以下の商標権を有していますので、この要件を満たします。

登録番号:第1435156号、
商標: 白い恋人(具体的には、以下のゴシック体の文字商標です)











指定商品・指定役務: 菓子およびパン(第30類)

 また、指定商品が上記と異なるものや、字体などを変形したものや、商品の包装袋や包装箱などに表示するためのもの等、様々な形で、少なくとも約20もの商標権を取得しています(第1491748号 、第1497590号 、第1540484号 、第1570157号 、第1656297号、第1656298号 、第1709421号、第1823610号 、第1962548号 、第2265718号 、第3227313号 、第4702276号、第4710552号 、第4765825号 、第4767289号 、第4767290号 、第4778317号 、第4782150号、第4884039号 )。
 なお、余談ですが、「黒い恋人 」という商標が、同じ「菓子およびパン」を含む指定商品についてて、あさひかわ農業協同組合の商標として登録されています。結論から言うと、「白い恋人」と「黒い恋人」は類似しないと特許庁により判断されたことになります。


 次に、②の商標の類似の検討をしたいと思います。
 商標が同一か類似かは、商標の外観(見た目)、称呼(発音)、観念(意味)の3つを検討することとなります。これらを比べて、一つでも同一だったり似ていれば、商標は互いに同一または類似することになります。

 石屋の「白い恋人」と、吉本の「面白い恋人」を比較してみます。商標を観察するとき、分離できる場合は分離して観察したりするのですが、そうすると両商標は、「恋人」の部分で共通します。
 一方、「白い」と「面白い」の部分で互いに異なります。
 まず、見た目はどうでしょうか?「面白い」は「白い」を含むので、ぱっと見たとき似ているとも言われかねません。
 発音はどうでしょうか?発音を見る際は、音質や音量や音調や音節などを見ていきます。発音は個人差や地域差があるかと思いますが、「おもしろい」の発音のうち「しろい」の部分は比較的強い音量となるので、その点を考慮すると、両商標は似ていると言えるかも知れません。
 最後に、意味はどうでしょうか?これは広辞苑などの辞書で調べれば明快で、明らかに異なります。
 このように、商標権の侵害成否をみるのに、商標の同一または類似を考察することが最も難しいです。裁判所では、実際には、「白い恋人」や「面白い」の取引者に与える各商標の印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察され、具体的な取引状況なども考慮されして判断されることになるかと思います。
 ここで、注目すべき点は、石屋の「白い恋人」が既に全国的に需要者によく知られている点です。このことを考えると、上記で分離観察しましたが、「白い恋人」自体が、ひとつのかたまりとなって周知と言えれば、今度は、「白い恋人」を一体として、「面白い恋人」と比較することになります。そうすると、どうでしょうか。 「面白い恋人」の「白い恋人」の部分に強い識別力が発揮される場合、つまり、「白い恋人」の部分が需要者を強く引きつけるような場合、需要者は、「白い恋人」にどんな文字が付加されようとも、「白い恋人」に目が行くので、「面白い恋人」を石屋の「白い恋人」の関連商品と間違えたりすると言えるかも知れません。このように言える場合は、両商標は、互いに類似すると認められるように思います。

 次に、③石屋の登録商標の指定商品または指定役務と、吉本等の使用商品が同一または類似かを検討します。上記の通り、石屋の第1435156号の指定商品には「菓子」が含まれており、吉本の「面白い恋人」は間違えなくお菓子ですので、商品は同一であり、この要件を満たします。

 最後に、④吉本等による「面白い恋人」の使用行為が商標法で特定される使用行為に該当するかですが、「面白い恋人」を包装に付しておりますし(商標法2条3項1号)、これを販売していますので(商標法2条3項2号)、この要件も満たします。
 なお、商標の使用については、商標的使用でないと、侵害が成立しません。商標的使用とは、「面白い恋人」が他の商品と識別できるように商標を使用することを言います。この点を検討すると、「面白い恋人」は既に大阪等の各所のお土産屋の店頭に他の商品と同じように並べられて販売されていることからすると、吉本の使用行為は、明らかに商標的使用行為となると思います。

 以上、ごくごく簡単に、「白い恋人」にかかる商標権の侵害について検討してみました。上述の通り、私は、石屋の「白い恋人」と吉本等の「面白い恋人」の両商標が類似するといえるのか否かが主な争点になるかと予想します。上記では、きわめて簡素にまとめてしまいましたが、商標の類似性の検討では、実際には、過去の良く似た裁判例を持ち出したり、音声学の観点から考察したり、かなり多面的にしかも詳細な考察を経て、商標権の侵害が認定されます。
 石屋と吉本等との争いは、もしかしたら和解などで終結するかも知れませんが、知的財産業務に携わる者として、今後の裁判の動向を見守りたいと思います。


 なお、この事件に関連して、吉本興業株式会社の関連会社である株式会社吉本倶楽部が、「面白い恋人」の商標登録出願してます(商願201-066954)、まだ審査中で未登録のようです。


<注意事項>本記事の著作権は、作者(hitooru)にく属します。リンクなどをしていただいても構いませんが、本記事をそのまま転載するようなことを禁止します。

知的財産法入門 (岩波新書)知的財産法入門 (岩波新書)
小泉 直樹

岩波書店 2010-09-18
売り上げランキング : 84419

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

商標・意匠・不正競争判例百選-別冊ジュリスト No.188-商標・意匠・不正競争判例百選-別冊ジュリスト No.188-
大渕 哲也

有斐閣 2007-11-14
売り上げランキング : 98595

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

商標法講義商標法講義
西村 雅子

発明協会 2010-04
売り上げランキング : 204523

Amazonで詳しく見る
by G-Tools