2013年3月27日水曜日

「いつか陽のあたる場所で」乃南アサ

 「いつか陽のあたる場所で」乃南アサ 著 を読了しました。


いつか陽のあたる場所で (新潮文庫)いつか陽のあたる場所で (新潮文庫)
乃南 アサ

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 この本は、NHKの「ドラマ10」シリーズで、2013.1.8 - 2013.3.12に放送されたドラマの原作です。

 物語の主人公は、芭子(はこ)と綾香(あやか)という名の女2人です。

 芭子は、現在29歳で、入れ込んだホストに貢ぐために、伝言ダイヤルで知り合った男性に薬で眠らせてお金を窃盗し、昏睡強盗罪で7年の実刑を受けました。

 綾香は、現在41歳で、結婚相手のドメスティックバイオレンスに苦しみ、結婚十年目に夫の暴力から子供を守りために、夫の首を絞めて殺害し、殺人罪で5年の実刑を受けました。

 この2人は、刑務所で知り合った前科持ちで、出所後に東京の谷中で暮らし始めます。この物語は、そんな暗く人に知られてはいけない過去を持つ2人が、他人の目を気にしながら息の詰まる暮らしをしながらも、仕事や下町ならではの世間との付き合いを通じ、悩みながらも健気に励まし合って生きてゆく姿を描写しています。
 
 私は、芭子が自身の不器用さを自覚する場面がもっとも印象的でした。一部を引用しますと、次の通りです。
 「多くの人は犯罪を犯す前に踏みとどまりまる。一体、犯罪を犯す人間と、刑務所に行くまでには至らない人間と、どこが違うのか。大多数の人は、その寸前の適当なところで踏みとどまるか、もう少し要領よく立ち回ることができる。ほどほどということを知り、誘惑からも、犯罪からも、するりと上手に逃れるものだ。それが出来なかった愚か者だけが、大した決断もないままに一線を越えてしまうのだ。意志の弱さか、運の悪さか、誘惑への脆さか。」

 この物語は、あくまで架空人物の生活を表現したものですが、物語を通じて、生きがいやら人生観などを考えさせられました。

 ドラマも、芭子役を上戸彩が演じ、綾香役を飯島直子が演じており、原作の描写が臨場感をもってうまく再現されていました。

 ドラマの方は、前記の「いつか陽のあたる場所で」に加えて、「すれ違う背中を」も原作となっています。以下にリンクをはっておきます。

すれ違う背中を (新潮文庫)すれ違う背中を (新潮文庫)
乃南 アサ

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 2013年7月21日(日)、参議院選挙投票日に、乃南 アサ著「いちばん長い夜に」を読み終えました。この「いちばん長い夜に」は、「いつか陽のあたる場所で」および「すれ違う背中を」の続編で、シリーズ完結編に相当します。「いちばん長い夜に」は、5章に分かれており、著書名ともなっている「いちばん長い夜に」という章が4番目に掲載されています。この章は、主人公の芭子が、仙台であの2011年3月11日の東日本大震災に遭い、大きく心が揺さぶられる様子が表現されています。東日本大震災に被災した際の描写が、あまりに鮮明でかつ具体的であるため、もしやと思ったら、やはり著者自身があの3月11日に仕事で仙台に行っており、そこで震災を被災していたことが「あとがき」に記載されていました。
 
 著者は、「あとがき」であの3月11日に仙台に行っていた理由を、「小森谷芭子と江口綾香には、共に前科(まえ)持ちという事情がある。・・・・・彼女たちにとっては『取り立てて大きなことが起こらない日常』こそが貴重であり、かけがえのないものに違いない。・・・・私は、このシリーズでそんな彼女たちの日常を書いていきたいと思っていた。ささやかな日常を積み上げていくことで、物語のスタート当初はひたすら自分を恥じ、世間の目に怯えて、まったく希望の抱けなかった主人公が次第に成長し、新たに生きていく希望を持てるようになってくれれば一番嬉しいと思っていた。だから、『あえて何も起こらない話』にしようと思っていた。書き始めてから足かけ七年を迎え、私の中ではこの物語もそろそろ終わりにさしかかってきているという感じがあった。だが、きちんと締めくくるためには、小森谷芭子以上に実は複雑な内面を抱えている江口綾香の、本当の心に触れないわけにはいかない。そこで私が彼女の『代わり』にとして一度仙台に赴いて。きっかとなるような何かを探してみたいと思いついた。日程をやりくりしたところ、三月十一日しか動ける日がなかったのだ。」と述べています。

 そして、「いちばん長い夜に」という章は、著者が仙台で震災被災した体験が、小森谷芭子の言葉や行動となって、反映されています。著者は、震災の体験を本書に盛り込んだことについて、「あとがき」で「肉体的にも精神的にも、原稿など書いていられる状態ではなかった。・・・書くために数えきれないほどのあの日を思い出す作業は相当な苦痛を伴ったが、それでも昇華させる部分は昇華させ、追体験を繰り返し、簡潔な言葉を探し続けた。私たち同様に「いま」を生きている設定の芭子と綾香も、あの体験を自分のものにして、さらに乗り越えていかなければならなかったからだ。」と述べています。
 
 それだけ、著者にとって、あの震災が大きな衝撃をもたらした事実であることは違いないし、あの震災がこの物語に大きく影響を与えたことは、同じ「あとがき」の「この物語が、まさかこういう終わり方をするとは、私自身もまったく予想していなかった。」という言葉に鮮明に表れているかと思います。

 この物語は、過去に体験した経験や、過去に犯した過ちを乗り越えて、新たな目標に向かって強く生きていく二人の女性の生きざまが、繊細な描写とともに描かれています。
いちばん長い夜にいちばん長い夜に
乃南アサ

新潮社 2013-01-31
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